評価:74/100
思い入れ:57/100
僕にとっては『はつゆきさくら』以来のサガプラ作品でした。全体を通してかなり読みやすく、世界観はよく作り込まれていて面白かったです。
物語の根幹にある設定の出し方だけもうちょっと上手ければなあ……とは思いますが世間の評価はそれなりに高くなるのではないでしょうか。
「怪盗モノ」ってノベルゲームのジャンルとしてはかなり珍しいな、というのが発表された時の素直な印象でした。僕の見識はそこまで広くないのでアレなんですが……怪盗をメインに据えている作品は他に聞いたことがないような気がします。
「怪盗モノ」として本作はどうだったかという点について。これはもうほぼ満点だったのではないかなと思います。
やってることは言ってしまえば犯罪なわけで、読み手がそこに嫌悪感を抱くような仕上げにしてしまうと台無しになってしまうんですよね。そのあたりの責任というか、重大さについて完全に無視するわけではなく。良いバランスを保って最後までコンセプトを貫いていたのはとても良い評価ポイントだと思います。
それでは良かった点、良くなかった点それぞれに触れていきましょう。
良かった点から。
まず取り上げたいのは日常パートにおけるコミカルな演出。
近年のサガプラはずっとこういう演出を入れていたのでしょうか?この点について注目する人はあまり多くないかもしれませんが、かなりの加点要素になったかなと。
ノベルゲームは紙芝居と揶揄されることもある中で、こういうちょっとした演出があるだけでも紙芝居から半歩抜けてるなと感じます。
いやほんとに。「こんなことで加点するとか馬鹿らしすぎん?」と思う方もおられるかもしれませんが、あまりにも軽く見過ぎるのはちょっと……と思いますね。
ボイスの途中でも表情差分がコロコロ変わるのに加えて、このちょっとした演出が入るおかげでキャラクターの可愛さが伝わりやすくなったりするのではないでしょうか。
次は「手の中にあるもの」というフレーズについて。
作中で何度も何度も多用されていますね。僕はこれをくどいとは思いませんでした。まずこの「くどさを感じなかった」というだけで高評価。
まさに作品のテーマの1つだったと言えるこのフレーズ。メッセージ性を多分に含み、カロリーが重くならないよう上手く届けられるように工夫されていたと思います。
ここからは良くないと感じた点について。
まず、
おまけとはいえ安易に3Pをするな
ですね。
僕は青藍島の世界観においてですらこれをやられると抵抗感が出てしまうので……つまるところ単純に好みではなかったわけで。
クリア後解放の選択肢で読めるというのもマイナスポイントでしたね。ED後にある程度の間を空けようがどのみち読後感が台無しになるんですよ……
次に設定の出し方。
物語の根幹に不思議要素を含む設定があるのですが、これの出し方があまりにも唐突で。僕はサプライズのように受け止めることができませんでした。めちゃくちゃ冷めちゃったんですよね。
ネタを出しすぎて読み手からは簡単に予想をつけられてしまうというのもまあ良くなかったとは思いますが、そこまでに不思議な要素はシャルの身体能力ぐらいしかないと思うのです(厳密に言えば他にもありますがアレほど突飛には感じない)。
これまで見せてきた世界観を飛び出すネタとして使うのなら、テキストや演出でそのあたりを上手く表現できていたら良かったのかな?と思います。
次は日常のギャグシーン。
中高生オタク向けっぽい雰囲気が強すぎて読むのが苦痛になる時がありました。まあ好みの問題ですかね……
男子クラスメイトとのやりとりなんかは下品になってなんぼですがちょいと安直すぎやしないか?と思います。
最後に主人公の印象について。
プロローグの段階では普通に良かったです。かなり好きな部類でした。しかし個別√に入ってから印象は激変。性欲ばかりに走っているように見えてしまったんですよね……
主人公がヒロインに惹かれていく過程の心情描写がほとんどないせいかもしれません。出会った時からミス・アルテにハートを奪われていた、ということすら説得力が少々怪しいレベルだと感じました。
思い入れの点が低めなのはこの面が6割、残り4割が設定の出し方が原因です。
不満点は中々に強かったのですが、総合的に見ると割と良い作品だったと思います。(設定の出し方には目をつぶるとして)シナリオの流れは全編通してとても良かったですし、時事ネタのようなものを積極的に取り込んでいて読みやすい。今どきな雰囲気を持つ作品だな〜と強く感じました。